Luca

ねぇ、ルカ?
あたしたちは、
いったいどれくらいの時間を
一緒にすごしてきたんだろうね?
ねぇ、ルカ?
どうやったらあたしは、
ルカの声を聴くことができたのかしら?
ねぇ、ルカ?
いつだってあたしたちは、
永遠のなかでねむることができたのにね。
てのひらをひらいたら、
すべてがそこにあったんだ。

ルカについて語られることは、
もうすべて過去とゆう代物だけど、
だけどあたしは、
ルカのことを訊ねられるときはいつだって
泣きたいような消えたいような衝動にかられるんだ。

ルカ?ルカ?ルカ?
今だって、今だって、
ルカとあたしの神さまは消えてなんかいない。
レースのカーテンのひるがえる
やわらかいまたたきのなか、
しろくしろく
とぎれることのない
なみのゆきき。
ルカが佇むのは、
いつも音のしない水辺。
天国がここにあらわれたら
きっとルカの足許さえも
浚ってしまう。

ルカは決してなかない。
あたしはルカのなきごえを聴いたことがない。
ルカのひだりめが
パチリとあたしを影絵にしてしまって、
それから、
ルカのその長いまつげが
あたしをしっかりと掴んだ。
それがチカチカする始まりの合図。

ねぇ、ルカ?
ねぇ、ルカ?
思い出のなか
迷子になってしまいそうよ。

胸の前で小さく十字をきるルカ。
マリア様のようにほほえむルカ。

むせかえりそうな午后、
夏の熱と一緒に
たくさんの死骸たちが
土の上に積み重なってゆく。
その一番うえで
手をつなぎあって寝ころんで
神さまのうたを一緒にうたったね。
まわりは蜜のにおいに満たされてたね。

「はじめのふたっつが死んでね。」
ルカがゆう。
「きれいな色。きれいな形。」
あたしは小さくうなずく。
ルカはすみれのように揺れてみせて笑う。
それから蝶々がばらばらにされて
土になってゆくのを
ふたり、ずっとみていた。

祈って。
ルカの声が
あたしを引き戻してしまわないように。
祈って。
ルカのほそいほそい指先が
あたしを殺してしまわないように。
祈って。

祈って。祈って。

花びらの雨のなか
あたしはルカを埋めた。
あの日
せかいはどうしようもなく
やさしかったね。
あの日
せかいはどうしようもなく
うつくしかったね。