スイングバイ

あたしたちを支えあってる重力は
ぶらんこみたいに
そっと息を詰めて
あたしはむせかえるようなひかりに
あたたかな胸を浸して
果てなんてないような
ひどく澄んだひだまりと
おもいおもい波との距離とを
きれいになんて測れはしないから
おんなじ分だけ
伸ばしたところで揺れている
永遠のことを
だれにも壊されたりしない
正夢のつづきのことを
なんどだって祈って
雪よりも白い
白い天井の
はしばしからせりあがる
刃物みたいな泡を
いつだって舐めあって
ありったけの
酸素と熱で補いつづけて
泡と泡とひかりで補いつづけて

熱帯の日が
結んだ手のひらから
まじりあい
おもいつくままに
ひとつにつながれてゆく

あたしたちには
一切のわけへだてもないから
だから想像のうちには入らない

 どこまでも
 世界は膨張して
 世界は膨張して
 とてもひどく
 澄んでしまって

まるでアゲハみたいにぴったりな
ひかりのなまえを思いついたんだけど
ひみつはひみつのままがよかったから
そのまま連れてゆく

あたしのすきなひとの
やわらかな肌に浮き上がった汗を
摘みとってしまいたかった

 熱帯の魔物がやってくる
 (だれもきづかない)
 (だれもきづかない)

あたしのすきなひとは
とてもいいにおいがした
一緒にいると
どこまでがあたしのからだだったのか
わからなくなった
あたしはすきなひとと一緒にいると
あまいとかくるしいとかで
いっぱいになる

ひかりの雨にうたれ
あたしの白いリボンがゆれたなら8月
せみたちの銃撃戦をくぐりぬけ
まぶしく泡が
はじけるよりも速く
およいでゆく
(ありったけの酸素をつめこんで)

 水の中でいきをする
 確かなこきゅうをする

波をあしとあしのあいだに抱くと
あたしのすきなひとは
深くいきをついた
なにもいわずに
すべってゆく
泥のなかのような8月

 (わらってるみたいだった)
 (あたたかい水をのむ)

ためらわずに死ぬことを
ふかくふかく
もぐる夢をみた朝の
あたたかな熱のことを
重ねるたび世界は
音のないどしゃぶりに
ちかづいてゆく

(ありったけの酸素をつめこんで)

そうして握った
ほんのすこしのこれからのことを

ひかりをとおしたように
あたしのからだから
おおきくやさしく
わかれてゆく
プリズム

ありったけの
酸素と熱で
すきなひとの名前を発音する
これからのことをもっと発音する

 (あしがつかなくっても)
 (このてをにぎっていて)
 (あたしたちの場所をさぐって)

かみさまのつくったものはみんな
どこにも帰れないでいて
けれどもだれのことも間違えたりはしない
そのことに目をこらして
ふるえながらまた
あたしは銃撃戦のただなかへ

ついばみあって
ねむりにつくまぎわの
雨音みたいなオイフォリ
あさがおのつるのように
いっせいにおいかけて
そうやって咲いて
はじいた
ひらいた
まぶしいものを
ひかりだすものを
あたしたちは
つなぎあった手と手を
ゆるめたりせず
そしてそのことに
けっして耐えたりせず
このやわらかすぎるからだで支えあって
しづかにしづかに
そっと息を詰めて

洪水になって
たくさんの奇跡たちにうめられたみちを
選んで歩いてゆく
どこからも
失われることはない
指先がふれているシロと
いるべきところでさえ
泡と泡とひかりで補いつづけて

いつまでもあたしたちのなかを
ただただ泳ぎ
とおりすぎてゆく
8月のあぶくたち
そのこたちと同じ重さを
胸へひきよせては
すきなひとのやわらかさを思いだす
ゆるやかにほころんでゆく
うすいワンピース一面
しっかりとしがみついたひだまりは
安らかな波からはぐれ
ときおり降りそそいで

 (だいじょうぶ
 だれにも
 こわされたりは
 しない)

かみさまの世界にも
あめはふり
あめはふり

(あめはこがね)

水のなかにも
ひかりやおとや
酸素と熱があるように

あめはこがね
あたしはいきをはく
あめはこがね
あたしはいきをすう

これからのことを発音する

いとおしい名前を発音する